これまでの研究で低線量率放射線被曝中にDAN損傷に対する応答反応の最上流に位置するATM蛋白は活性化されるが、その下流に位置するp53蛋白はほとんど活性化されないことが明らかになった。そこで、他に低線量率放射線に被曝中に発現の変動が見られる遺伝子はないかマイクロアレイを用いて網羅的な検索を行った。ヒトのcDNAが25000個スポットされたマイクロアレイを用いて低線量率放射線に被曝直後の細胞から得たRNAをハイブリダイズし、同じ条件下で培養し被曝させていない細胞のRNAをコントロールにして比較した。その結果、低線量率放射線によって発現が2倍以上上昇した遺伝子が26遺伝子あり、発現が1/3以下に低下した遺伝子も30遺伝子あった。発現が上昇している遺伝子にはストレス応答遺伝子として知られているものや細胞周期の制御に関わる遺伝子が含まれていた。一方、発現が低下している遺伝子にはリボゾーム蛋白の遺伝子が数多く見られ、また細胞接着に関する遺伝子も含まれていた。この中で我々はヒストンファミリーの中でH2とH3ファミリーの遺伝子には発現の変動が見られないのに対してH1ファミリーの遺伝子については発現上昇が見られた点に注目した。H2とH3ヒストンはDNAに損傷を受けた後のヒストン再構成に関与することが知られているが、H1ヒストンの放射線応答に対する役割は不明である。そこで、より詳細な解析を行うために、リアルタイムPCRを用いた解析を行った。ヒストンH1ファミリーに属するヒストン1H1c、ヒストン1H2bd、ヒストン1H4hの各遺伝子のcDNAに対応するプライマーを作成し、定量PCRを行った。その結果これらのヒストンH1ファミリー遺伝子が低線量率放射線被曝中に発現が上昇していることが確認された。今後はヒストンH1ファミリーの放射線応答における役割を解明する必要がある。
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