放線菌由来のクロモプロテイン系抗生物質C-1027は、ラジカルを発生しDNA切断活性を示す非常に不安定なクロモフォアと、これを特異的に結合して安定化するアポタンパクから構成される複合体であり、強力な抗腫瘍活性を示す。本研究では、1)異種核多次元NMR解析による複合体の高分解能三次元構造決定、2)部位特異的改変アポタンパクを用いたクロモフォア・アポタンパク間相互作用の解析、3)アポタンパクの分子運動性の解析を行い、アポタンパクによるクロモフォア認識機構及び放出機構を詳細に理解することを目的とする。 1)高分解能三次元構造決定 アポタンパク単独及び芳香環化クロモフォアとの複合体のNMR構造解析を行った結果、高分解能の溶液構造を決定することに成功し、クロモフォア・アポタンパク間相互作用に関して、より詳細な知見を得ることが出来た。 2)クロモフォア・アポタンパク間相互作用の解析 クロモフォア結合ポケット辺縁部のアミノ酸残基を変えた変異アポタンパクを作製し、カロリメトリー法によるクロモフォアの結合実験を行った。その結果、D101カルボキシル基とクロモフォアのC18位アミノ基との間に強い静電的相互作用があること、またC18位アミノ基の近傍に存在するH104イミダゾール環の荷電状態がこの静電的相互作用を調整していることが明らかとなった。 3)分子運動性の解析 アポタンパク単独及び芳香環化クロモフォアとの複合体の分子運動性の解析を行った結果、クロモフォアの放出に関わるループの位置を決めるアミノ酸残基を特定することに成功した。 4)低分子化合物結合能の改変 クロモフォア結合部位入口に存在するアミノ酸残基を変えた変異アポタンパクを作製し、NMR法とカロリメトリー法による低分子化合物の結合実験を行った。その結果、野生型が本来結合出来なかった、より低分子量のエチジウムブロマイドを強く結合出来る変異体が得られた。
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