バクテリアに特有の細胞表層化学成分が、動物の免疫力を強化するという現象は古くから知られていた。本研究ではわれわれのグループが以前に合成的にそれぞれの活性本体であることを証明したペプチドグリカンの成分・ムラミルジペプチド(MDP)とリポ多糖の糖脂質部・リピドAについて、その活性発現の機構を精密な構造に基づいて理解するために行ったものである。初年度に引き続いて以下のような成果をあげた。 MDPの活性確認以来、われわれを含む多くの研究者によって求められてきたその受容体が、動物細胞内にミシガン大学の猪原らによって見だされた蛋白質NOD2であること、四糖、八糖を含むMDPよりも分子量の大きいペプチドグリカン部分構造もこのNOD2を介して活性を発現することが、合成化合物を用いて証明できた。さらに同じく細胞内に存在するNOD1がグラム陰性菌に特有のジアミノピメリン酸を含むペプチドに対する受容体であることも明らかにできた。一方、動物細胞表層の受容体TLR2が、疎水性に修飾したペプチドグリカン部分構造を認識することから、これまで不明であったペプチドグリカンそのものの活性発現機構解明の鍵が得られた。 リポ多糖や、その活性本体リピドAの受容体が動物細胞表層のTLR4であることはすでに明らかになっているが、その機能発現に関わる蛋白質MD2の役割を東京大学・三宅らと協力して明らかにした。またリポ多糖の内毒素作用を抑制するある種のリピドA誘導体のアンタゴニスト活性について、種々の関連化合物を合成して内毒素活性とアンタゴニスト活性を分ける構造要因を安定配座計算の手法と活性試験によって追求した。さらにその結果に基づいて配座を固定した誘導体の合成を進めた。
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