ミオグロビンはプロトポルフィリンIX鉄錯体(ヘム)を補欠分子族として有し、酸素分子を安定に保持する機能を有している。このヘムはタンパク質と非共有結合を介して相互作用しているため、天然のヘムを酸処理によって除去し、人工補欠分子を挿入した再構成タンパク質の調製が可能である。本研究では、この点に着目し、以下のように新しいヘムタンパク質の機能創製をめざした。 (1)ミオグロビン中のプロトヘムを、非天然のヘムであるポルフィセン鉄錯体に置換し、再構成タンパク質を構築して、その酸素保持機能の評価を行った。その結果、酸素親和性は天然のミオグロビンの2600倍増加しており、主に酸素分子の解離速度が抑えられていることに由来していることが判明した。一方、一酸化炭素の親和性は、再構成タンパク質と天然タンパク質とでは、あまり大きな差がなかった。その結果、再構成タンパク質は一酸化炭素よりも10倍程度酸素を強く結合する極めて興味深く有用な結果が得られた。 (2)鉄ポルフィセンミオグロビンのペルオキシダーゼ、ペルオキシゲナーゼの評価を行った。その結果、この再構成タンパク質は天然タンパク質よりも酸化触媒として優れていることが実証された。たとえば、グアイアコールの一電子酸化の場合、天然のミオグロビンに比べて約10倍の加速が認められた。このように、ポルフィリン骨格を別の骨格に変換することにより、過酸化水素依存の酸化反応を加速する初めての例を示した。さらに本来ミオグロビンでは見られない、Compound III(鉄オキシ錯体)種の生成を過剰の過酸化水素存在下で確認した。また過酸化水素との反応に適した変異体とプロピオン酸末端合成ヘムの組み合わせでは、天然のミオグロビンに比べ400倍もの活性を示した。 (3)ヘムプロピオン酸末端に、大きな疎水性クラスターを導入することにより、本来一酸化炭素と優先的に結合するミオグロビン中のヘムが、特異的に酸素分子と結合するきわめてユニークな性質を見いだした。将来の人工血液としても有望である。
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