実験1)SHAP-HA複合体の卵細胞、卵丘細胞への関与の分子レベルでの解析研究:体外受精、精子の卵子内人工導入(ICSI)などの実験より、SHAP-HA複合体形成不能による受精障害の原因は透明帯の異常にあると考えられる。走査型電子顕微鏡で観察したところ、透明帯表面構造の違いが認められた。これは、卵丘不全によって卵細胞表層顆粒の脱顆粒制御に破綻が生じた結果と推測した。 実験2)培養細胞炎症モデル実験系を用いた研究:HA基質に接着したCD44陽性リンパ系細胞HUT78を蛍光免疫染色して観察したところ、フリーなHAに比べると、SHAP-HA複合体の場合では、細胞表面へのHAの凝縮が高い頻度で観察され、SHAPがHA-CD44相互作用を増強する新たな証拠を得た。また、ヒトリウマチ関節炎患部滑膜の免疫染色でも、浸潤細胞の表面に強いCD44、SHAP及びHAの染色が観察され、リウマチ関節炎発症にその分子反応機構の関与が示唆された。 実験3)SHAP-HA複合体形成反応を触媒する血清因子:血清中酵素因子の活性を簡便に測定するELISA法を開発し、ヒト不妊女性患者を対象に血清診断により新しい病因解明への準備を整えた。また、ヒト血清から酵素因子を精製し、ペプチド解析で判明した候補分子のcDNAを得て、活性の確定を行っている。 実験4)マウス炎症性疾患モデル解析:ウシII型コラーゲン誘導関節炎実験を行い、SHAP-HA複合体形成欠損マウス(C57black/16とDBAの近交系を確立)では関節炎発症が軽減する傾向を見出した。一方、Bleomycinによる肺繊維化モデルでは、欠損マウスでは炎症細胞の浸潤は増加していた。またConA誘導性の肝炎についても欠損マウスでは血液炎症マーカーALT値の上昇傾向を示し、現在、これらの分子機構の解析を進めている。またリポ多糖エンドトキシン投与による全身性血管内凝固反応(DIC)系については明確な差は見られなかった。欠損マウス作製に用いたbikunin(炎症に関与するプロテーゼの阻害活性を持つ)遺伝子の欠損による方法が影響している可能性がある。
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