研究概要 |
(1)セリン/スレオニンホスファターゼ1型(PP1)の新規特異的阻害剤による増殖シグナル制御:トートマイセチン(TC)が,in vitroのみならず,培養細胞の培地に加えたin vivoの場合でもPP1活性のみを特異的に抑制することを明らかにした。TCを用いてPP1のMAPK経路への関与を解明した。TCは3種類のMAPK経路のうち,JNKとp38には全く影響を与えなかったが,raf/MEK/ERK経路の活性化を特異的に阻害した。この結果に基づき,PP1の触媒サブユニットを細胞内に発現させた。PP1の触媒サブユニットがrafと結合すること,PP1のホスファターゼ活性がrafの活性化に働くことが明らかとなった。 (2)チロシンホスファターゼによる発がん抑制機構:われわれが単離した細胞質型チロシンホスファターゼ(PTPεC)を用いて,マウス白血病細胞M1細胞の腫瘍原性に与える影響を調べた。親株の移植により速やかな癌死が認められたが,正常型PTPεCが導入された細胞では生存時間が著しく延長した。また変異型PTPεCでは生存時間に変化が認められなかった。したがって,PTPεCは腫瘍原性を抑制する機能があることが示唆された。 (3)ストレス応答の2重基質特異性ホスファターゼによる制御:MKP-7は,われわれが単離したJNKホスファターゼである。今回MKP-7が,活性化ERKにより直接リン酸化されることを明らかにした。MKP-7が増殖経路とストレス応答経路のクロストークに関わることが示唆された。MKP-7のほか,低分子量2重特異性ホスファターゼ(LDP/Low-molecular-mass dual specific phosphatase)の機能解析を進めた。
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