発生の初期段階、受精時の卵でのカルシウムウェーブがどういうメカニズムで生じているのかなどはほとんど解明されていない。本プロジェクトでは、第一に、イノシトールリン脂質代謝の要の酵素のひとつホスフォリパーゼCδ4(PLCδ4)の遺伝子欠損マウスは、強い不妊傾向を示すことを自然交配及び体外受精から明らかにした。次にPLCδが受精時のどのステップに関与するのか分子機構を検討した所、PLCδ4はカルシウムウェーブを引き起こすカルシウムオシレーションファクターではないこと、また卵と精子の融合のステップには関与しないものの、卵の透明帯通過に必須な、精子先体反応に重要な役割を持つ酵素であることを見出した。 更にどういうメカニズムでPLCδ4が精子先体反応に関与するかを検討した所、PLCδ4遺伝子欠損マウスでは、精子先体反応に必須な精子内のカルシウムの上昇が観察されないことが判明した。またPLCδ4が精子の外からのカルシウムの流入に重要なstore operated channelを制御することでカルシウムチャネルの開閉に重要な役割を持つことを報告した。これらの事実は、PLCδ4が精子先体反応時に精子内のカルシウム制御を行っていることを示すものであり、PLCδ4遺伝子欠損マウスではこの異常によってカルシウム濃度が上昇せず、精子先体反応を引き起こされない結果、不妊に至ることが判明した。こうした受精のメカニズの解明は、男性不妊治療や個体発生を理解する上で大きな貢献をすることができると考えられる。
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