近年、新規な機能を有するヘムタンパク質として、気体分子センサーとして機能するヘムタンパク質が注目を集めている。本研究では、酸素センサーとして機能するHemAT、一酸化炭素センサーとして機能するCooAを対象として、これら気体分子センサータンパク質の構造と機能の解明を目的として研究を行った。本研究で用いたHemATは、枯草菌中に含まれ、本菌の酸素に対する走化性制御系において酸素センサーとして機能するシグナルトランスデューサータンパク質である。HemAT中には、プロトヘムが含まれれており、これが酸素センサーの本体として機能していることが分かった。HemATは、ミオグロビンと類似した電子吸収スペクトルを示す。また、酸素化型HemATの自動酸化反応速度を測定したところ、マッコウクジラ由来のミオグロビン(SwMb)とほぼ同じ自動酸化反応速度を示すことが分かった。さらに、酸素の結合(k_<on>)および、解離反応速度定数(k_<off>)を、それぞれ、レーザーフラッシュ法、ストップトフロー法により決定した。その結果、k_<on>および、k_<off>は、それぞれ32μM^<-1>s^<-1>、23s^<-1>と求まった。これらの値より計算した酸素の解離平衡定数は、SwMbとほぼ同様の値であった。このように、HemATとSwMbは、多くの点で共通した性質を示すことが分かった。しかしながら、酸素化型HemATの共鳴ラマンスペクトルは、SwMbの場合とは異なった結果を示した。これは、ヘムに結合した酸素と遠位側ヘムポケットのアミノ酸残基との間で形成される水素結合の様式が、両者で異なっているためであると考えられる。
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