研究概要 |
本年度は、「脳自身が合成する性ホルモンによる記憶学習の増進」という新しい機能について研究を進めた。1)ラット脳より急性的に調製した海馬スライスにおいて、各種の^3H-基質ステロイドを海馬スライスと5時間インキュベーションし、その代謝物をHPLC解析によって検討することによって、チトクロムP450scc→P45017α→P450arom系によるニューロステロイドの合成経路が働いて、エストラジオールを合成していることを確認した。2)電気生理測定で、エストラジオールは4週齢ラット海馬のCA1の長期増強を抑制した。3)この、エストラジオールの急性作用を媒介する神経シナプス膜上エストラジオール受容体の探索を進めた。古典的エストロゲン受容体ERαに対するC末端抗体MC-20にょるウェスタンブロットにおいて、子宮や卵巣では67-kDaの古典的ERαのみが検出されたが、海馬、大脳皮質より調製したシナプトソーム膜画分では、60-kDaのErα類似の新規蛋白質のみが検出された。視床下部のシナプトソーム膜画分では67-kDa古典的ERαと60-kDa新規蛋白質が同時に検出された。また、初代培養海馬神経細胞でも60-kDa蛋白質のみが検出された。4)一方、光学顕微鏡を用いた抗体組織染色で、P45017α,P450aromのみならずERα類似蛋白も、海馬の錐体神経細胞や顆粒神経細胞に分布することを確認した。グリアにはほとんど存在しなかった。5)更に、電子顕微鏡で金抗体染色法を用いることで、P45017α,P450arom, ERα類似蛋白が、海馬CA1錐体神経細胞のシナプスに局在することを、ついに発見した。
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