研究概要 |
本研究の目的は,ATPの加水分解の自由エネルギーを,ADPやリン酸を共存させることによって調節したうえでF_1-ATPaseの回転運動を精密に測定し,一分子でのエネルギー変換を理解することである.平成14年度には,回転の精密な測定のための顕微鏡装置のセットアップと予備的な実験を行ったが,平成15年度はさらに実験を繰り返し,F_1-ATPaseの回転運動をATP, ADP, Pi共存下で測定した.その結果,ATPの加水分解の自由エネルギーは個々の回転のステップの立ち上がりには影響せず,ステップの間隔に影響するという結果を確認するとともに,1.酵素反応遠度論的にはこれがADPやHによる競争阻害として理解できること,2.熱力学的には運動を起こすための活性化エネルギーを熱揺らぎから吸収する頻度が,ATP, ADP, Piの濃度によって決まること,3.粘性抵抗に対する散逸的な運動においては,入力の自由エネルギーは個々のステップのトルクではなく,ステップの頻度を通じて出力に現れてくることが理論的にも正しい解釈であることなどが分かった. また理論面では以前にC言語で書いていたシミュレーションプログラムをMathematicaで書き換えることにより、モデル化を行う際の問題点をより明確に把握できるようになった. 現在,実験に用いた変異体の基本的な性質と,自由エネルギー変化に対する回転の応用についての論文の投稿を準備している.
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