研究概要 |
高圧NMRを用いて蛋白質の構造形成過程を観測すると,B及びCヘリックスにある特定のアミノ酸残基の熱安定性が特異的に低いことが分かった。さらに,CPMG緩和時間分散法により,プリオンのマイクロ秒からミリ秒の遅い揺らぎが,B及びCヘリックスにおいて観測された。これらの現象は,プリオンの構造形成過程の早期に,中間体が形成される可能性を示している。これらの部位は病気を引き起こすアミノ酸変異部位と分布が似ていた。 さらに,高圧NMRで見られた化学シフトの変化のうち圧力に線形に依存する部分と,揺らぎによる化学シフトの変化との間に相関がみられた。この事実は,遅い揺らぎが,天然構造の範囲内で起きていることを示している。以上の結果を総合すると,位相空間で考えた場合,病原性を引き起こすプリオンの構造転換に関与する初期の構造変化が,天然構造におけるダイナミクス,さらには熱安定性へと接続できることが分かる。蛋白質は天然安定構造のみでなく,中間体等のポピュレーションの低い構造も,その機能や病原性に重要な役割を果たしている,と言える。 我々は,プリオンにおける構造変化の早期過程を原子分解能で観測するため,超高速パルス・ラベル装置を試作した。 広い空間における新しい蛋白質概念を厳密に記述するためには,こめようなグローバルな揺らぎを一般に記述する新しい数学的形式を作り上げる必要がある。そのため,我々は,トレース公式用いた,蛋白質ダイナミクスの新たな表現手段を創出し,NMR緩和時間の解釈に応用した。
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