研究概要 |
生物が持つ水素の代謝能力の本質はヒドロゲナーゼという金属タンパク質である。ヒドロゲナーゼは水素の酸化・還元を触媒する機能を持つ。従って本酵素の工業的利用の可能性を探る研究は新規燃料電池の開発や石油に変わるクリーンエネルギー生成の道を拓くと期待できる。活性部位にNiおよびFeを持つ[NiFe]ヒドロゲナーゼはこれまでに多くの菌株について構造化学的研究がなされ、金属活性部位周辺で起こる触媒反応についていろいろな奇妙な現象が報告されている。本課題では[NiFe]ヒドロゲナーゼのNi-Fe活性部位における水素活性化の分子機構(水素の吸着・分解・プロトンの遊離)を準動的・超高分解能X線結晶解析法により構造化学的に解明することを最終目標としている. 平成14年度は酵素結晶の活性部位に阻害剤・CO分子を導入し,水素活性化の触媒反応を停止させた後,光照射によりCO配位結合構造に変化を与えた。その結果、徐々に触媒反応を開始させることにより活性部位に起こる構造の変化を捉えることに成功した。 平成15年度は、ヒドロゲナーゼの活性部位へのCOの結合・遊離により電子密度がどのように変化しているかを調べた。詳細な検討の結果、本活性部位では原子が移動することなくNiとCys546のS原子の電子密度分布のみが大きく変化したことがわかった。これらの原子のみが酵素の触媒サイクルで重要な役割を持つことが示唆された。 平成16年度は、ヒドロゲナーゼの酸化型が活性化されていく過程において活性部位の構造がどのように変化していくのかを調べた。通常、菌体から抽出して得られた酵素分子(酸化型酵素)はNi-A型という不活性-安定型分子とNi-B型という活性準備-不安定型の混合物である。本研究では試薬Na_2Sを用いることにより、純粋なNi-A型のみからなる酵素溶液を調製することに成功した。Na_2S添加後、酵素中の電子伝達ユニットである3個のFe-Sクラスターのうち、Fe_3S_4のクラスターのみが酸化-還元を繰り返していることがわかった。今後は、Ni-A型とNi-B型のそれぞれについて結晶化および結晶構造解析を行い、本活性部位の活性化機構を完全に解明していく予定である。
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