ショウジョウバエの味細胞は脚と唇弁にある感覚子に存在する。1本の味覚感覚子には、それぞれ水(W)、糖(S)、塩(L1、L2)の味質に応答する4つの味細胞が存在することが知られているが、これは唇弁の特定の感覚子の解析結果によるものであった。感覚子によって味覚応答に違いがあるのかを検証するために、唇弁の全ての感覚子から4種類の糖に対する神経応答を電気生理学的手法によって記録した。ショウジョウバエの唇弁には片側31本の味覚感覚子が存在し、場所や長さによってL、S、Iタイプの3つに分類される。実験の結果、それぞれのタイプ別に糖に対する神経応答が違うことが確認された。Lタイプの感覚子が最も感度が高く、Iタイプの感覚子はLタイプの半分ほどの応答であった。Sタイプの感覚子ではショ糖に対してはLタイプと同等に応答するが、他の糖に対しての応答は弱かった。これまで、ショウジョウバエではショ糖とグルコースは同じ受容体で受容されていると考えられてきたが、この2つの糖に対する受容体が独立に存在する可能性が示された。また、Iタイプの感覚子では、1つの味細胞が、糖(S)と低濃度の塩(L1)の2つの味質に応答することを確認した。味覚受容体候補遺伝子Grの発現細胞をGFPによって同定したが、我々が明らかにした糖に対する感度に対応したGrの発現は認められなかった。数種類の苦味物質を用いた行動実験によりショウジョウバエは苦味物質を忌避することが明らかになった。しかし、これまで苦味物質に応答する感覚子の存在は報告されていなかった。そこで、フ節の感覚子が苦味物質に応答するかを調べたところ、特定の感覚子が応答することを初めて確認した。応答は低濃度でおこり、刺激開始後、50ミリ秒の遅れでインパルスが生じた。苦味物質は、糖の応答を阻害することも確かめられた。
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