分裂酵母の胞子形成は高等生物の配偶子形成過程に相当し、減数分裂を伴う細胞形態形成過程である。将来、胞子の細胞膜に分化する前胞子膜は第二減数分裂から形成され始める。減数分裂と前胞子膜形成のカップリング機構、特に第一分裂で前胞子膜形成開始が抑制される機構を解明するため、本年度は分子遺伝学的な解析により同定された遺伝子産物の解析を進めた。 1)突然変異形質の解析:第一分裂時に前胞子膜が形成されるため二胞子子嚢を形成する突然変異株gis(gigantic spores)の遺伝解析などにより5個の遺伝子を同定した。また、細胞周期の主要な制御因子であるCdc2キナーゼの変異体も同様な表現型を示した。cdc2、gis突然変異株の減数分裂における前胞子膜形成のタイミングを調べ、いずれも第一減数分裂中期に開始することを観察した。2)gis遺伝子産物の同定:クローニングしたgis遺伝子の塩基配列から、これらがすべて分裂装置に関係するタンパク質であることがわかった。3)スピンドルチェックポイント機構との関連:gis変異体でスピンドルチェックポイント機構が活性化することが推定された。そこで、スピンドルチェックポイントの中心的因子であるMad2タンパク質の局在を調べたところ、gis変異体では動原体に局在することが証明された。また、mad2とgisの二重変異体では前胞子膜形成が正常に第二分裂からはじまることを見いだした。このことから、gisタンパク質はスピンドルチェックポイント経路を介して前胞子膜形成の開始を制御するものと考えられる。一方、cdc2変異による二胞子子嚢の形成はmad2変異により正常化せず、gis変異とは異なる機構が考えられる。
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