研究概要 |
哺乳動物細胞において、ホスファチジルセリン(PS)は、既存のリン脂質ホスファチジルコリン(PC)或いはホスファチジルエタノールアミン(PE)と遊離セリンの塩基交換反応により生合成され、PS合成酵素I(PSS I)及びII(PSS II)がこれら反応をそれぞれ触媒する。この塩基交換反応はPSによって翻訳後のフィードバックコントロールを受けることがわかっているが、その仕組みは明らかでない。両酵素のcDNAがクローニングされ、互いに約30%のホモロジーを有し、ともに疎水性が高く、恐らく膜を複数回貫通する膜内在性蛋白であることが判明したが、他の既知のタンパク質との類似性が見い出されず、アミノ酸配列比較によるモチーフ或いはドメイン構造などの情報は得られない。そこで、PSS Iの活性、或いはPS合成調節に関わるアミノ酸残基を探索する目的で、二つの酵素に共通する66の極性アミノ酸残基を逐次アラニンに置換したPSS IをCHO-K1細胞に過剰発現させ、インタクト細胞におけるPS合成調節の変化と細胞抽出液中の塩基交換活性の変化を調べた。その結果、R95,H97,C189,R262,Q266,R336をそれぞれアラニンで置換すると、PS合成調節に異常を生じ、Y111,D166,R184,R323,E364,K370を置換すると蛋白の発現に著しい低下がみられ、H172,E197,E200,N209,E212,D216,D221,N226の置換では発現した蛋白のセリン塩基交換活性は著しく失われていた。また、N209,K308のアラニンへの置換は、セリン塩基交換反応を低下させるが、コリン及びエタノールアミン塩基交換反応にはあまり影響しないことが明らかとなった。これらの結果を基に、PS合成酵素の活性部位及び調節部位の解明、またPS合成調節機構についてさらに解析を進めていきたい。
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