1.ホスファチジルセリン(PS)の生合成と代謝調節に関する研究 PS合成酵素1の部分精製を行い、その性状解析から、次の2つの知見を得ることができた。(1)哺乳動物細胞におけるPS合成は、既存のリン脂質(PCあるいはPE)のコリンあるいはエタノールアミン部分と遊離のセリンの交換により行われる。精製酵素の活性を種々の濃度のPCあるいはPE存在下で測定したところ、PCあるいはPEの添加により酵素活性の上昇が見られ、PS合成酵素1がPCとPEの両者を基質として用いることが示唆された。無傷(intact)細胞ではPS合成酵素1はPCのみを基質とすることが強く示唆されており、この結果は予想外の興味ある結果である。(2)PSによるPS合成酵素1の活性阻害が、PSと同酵素との直接の相互作用によるものかを調べるために、粗酵素と精製酵素の活性を、PS存在下と非存在下において測定した。その結果、粗酵素の活性がPSにより濃度依存的に阻害されるのに対し、精製酵素の活性はPSにより全く阻害されないことが判明した。従って、PSによるPS合成酵素1の活性阻害が未知の因子を介した間接的なものである可能性が示唆された。 2.PSの細胞内輸送に関する研究 前年度までに分離した温度感受性でありPS輸送に損傷を持つと思われる脂質代謝異常変異株(約80株)の遺伝学的解析をさらに進め、それら変異株の約半分において単一変異が増殖温度感受性と脂質代謝異常の原因となっていることを明らかにした。この原因変異遺伝子を同定する目的で、変異株にプラスミドベクターで構築した酵母遺伝子ライブラリーを導入したところ、19種類の変異株において高温で増殖できる形質転換細胞を分離することができた。得られた形質転換細胞は、いずれもほぼ正常な脂質代謝を示したことから、これら形質転換細胞は目的遺伝子を運ぶプラスミドを有するものと考えられた。
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