生物の発生の際、たった一個の細胞(受精卵)は分裂を繰り返しながら多種多様な細胞を作り出す。非対称細胞分裂は生物の発生の際、細胞の多様性を作り出す基本的機構である。分裂が非対称であることを知るためには、細胞系譜がわかっていることが必要である。細胞系譜を調べることの難しい高等生物では非対称分裂の研究は進んでいない。線虫C.elegansは細胞系譜を簡単に調べることのできるので非対称分裂研究に適している。C.elegansにおいて、いくつかの細胞の非対称分裂はlin-44/wntとlin-17/frizzledによって制御されている。例えば尻尾にあるT細胞は非対称に分裂し、前側の娘細胞T.aはその後表皮系の細胞を作り、後ろ側の娘細胞は神経系の細胞を作る。lin-17変異体ではどちらの細胞も表皮系の細胞を作り、T.pから作られるべき神経系の細胞が失われる。われわれは、T細胞分裂の非対称性が、異常になる変異体をスクリーニングし、12種類の遺伝子(psa-1〜12)を同定していた。われわれはさらにこのスクリーニングを大規模に行い、多くの変異体を同定し、非対称分裂に合計40種類以上の遺伝子が関与していることを明らかにした。現在、single nucleotide polymorphism(SNP)を用いて遺伝子を詳細にマッピングしている。また、psa-3遺伝子をクローニングし、哺乳類のMeis遺伝子に似ていることを明らかにした。またpsa-9、psa-11遺伝子がそれぞれすでに同定されていたnob-1というHox遺伝子、哺乳類のPbxのホモローグであるceh-20遺伝子であることも明らかにした。Meis-Pbx-Hox蛋白は複合体を形成することが知られており、線虫においてもPSA-3-CEH-20-NOB-1は複合体を形成して非対称分裂を制御していると考えられる。
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