研究概要 |
我々は、神経情報伝達機構における脂質性二次伝達物質ジアシルグリセロールのリン酸化酵素DGキナーゼ(DGK)に注目し、ラットから5種のDGKアイソザイム(α,-β,-γ,-ζ,-ι)を単離し、その分子多様性を明らかにしてきた。これらDGKアイソザイムの全てが脳に豊富な発現を示すこと、また各々のアイソザイムが脳内において特徴的な遺伝子発現局在パターンを示すことを考えあわせると、この酵素ファミリーが中枢神経系において重要な役割を果たしている可能性が示唆される。本研究においては、DGKアイソザイムの蛋白レベルでの解析を進め、遺伝子導入細胞および特異抗体を用いた形態学的解析を中心として各アイソザイムの神経系における機能解析を行った。 シナプス形成機構におけるDGKの役割:DGKβ(ベータ)は、脳内において線条体、側座核、嗅球、嗅結節、海馬、および前頭葉の領域に強い遺伝子発現局在を示すことが特徴である。我々はDGKβの機能解析を進めるために、特異抗体を用いて脳内における局在を解析した。DGKβ蛋白は、その遺伝子発現部位に一致して、線条体や海馬などの神経細胞に強い免疫陽性反応を示した。金コロイドを用いた免疫電顕法により詳細な観察を行うと、DGKβは後シナプス側の樹状突起および棘突起の細胞膜に局在することが明らかとなった。ラット脳のウエスタンブロット解析においても、DGKβは脳不溶性画分のうち、PSD画分に多く存在することが示された。次に、遺伝子導入培養神経細胞での局在を観察すると、DGKβは樹状突起の棘突起様構造物にリング状に局在することが示され、脳の免疫電顕の結果を支持するものと考えられた。さらにこのDGKβ遺伝子導入細胞を詳細に観察すると、正常のニューロンに比較し、棘突起様構造物が増加する所見が得られ、DGKβの遺伝子導入により棘突起様構造物の形成が誘導される可能性が示唆される。
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