本研究は、マウス海馬のCA1錐体細胞シナプスにおけるNMDA受容体サブユニットNR2Bの左右非対称分布の機能的意義および非対称性を引き起こす分子基盤とそのメカニズムを解明することを目的とした。まずVHCTマウスから作成した海馬標本を用い、postembedding法によって同側入力を受ける錐体細胞シナプスに存在するNR2BとNR1やAMPA受容体の濃度を左右の海馬で定量的に比較した。その結果CA1 stratum oriensとstratum radiatumにおいてNR2B特異的に海馬シナプスにおける密度の非対称性が認められ、しかもstratum oriensとstratum radiatumでその方向性が逆転していた。stratum radiatumにおいて介在神経細胞に対するシナプスに対しても同様の解析を行ったところ、全く左右差は検出されず、NR2Bの左右非対称分布は錐体細胞シナプスに特異的であることが明らかとなった。またNR2B以外に左右非対称に存在する分子を検索したところNR1とPSD95については、左右差が全く見られないという結果を得たが、その他の分子でいくつかの候補を見出すことができた。今後はこれをもとに、関係する機能分子を重点的に検索する。また非対称性を引き起こすメカニズムを解明するアッセイ系として海馬スライスカルチャーを作成し、左右の海馬からの混合培養でシナプス反応を記録することに成功した。今後は生体内での非対称性がスライスカルチャーで再現されるかどうかを検証する。また、各種遺伝子変異マウスを用いて左右非対称分布を検討したところ、非対称が増強しているミュータントと消失しているミュータントを発見した。これらの動物は非対称性を引き起こすメカニズムを解明する上で極めて有用であるばかりでなく、今後、左右非対称分布の機能的意義を海馬の関与する行動実験を使って追及する道を拓くものである。
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