研究は、脳の発達と機能維持の解明を目的とした基盤研究である。脳の初期発生から形態形成を経て高次脳機能を獲得する過程を理解することは、成熟脳における脳機能維持の解明につながる。神経成長円錐を発達時期や部位に共通の機能ユニットと仮定して、成長円錐構成膜タンパクを網羅的に分析した。その結果、脳形成期に一過性に発現し成熟と共に消失するgmp46/CAR(Growth cone Membrane Protein with a molecular mass 46kDa/Coxsakievirus Adenovirus Receptor)を発見した。ウイルス受容体としてではなくgmp46/CARの生理機能は、イムノグロブリンスーパーファミリーに属する新しい細胞接着分子としての機能である。タンパク構造の特徴としてC末にPDZ結合ドメインのSer-Ile-Val配列があり、イーストTwo-hyrid法でPDZ結合タンパクであるPSD95を見つけた。gmp46/CAR cDNAを強制発現したC6培養細胞の実験から、細胞が接着する突起や面にgmp46/CARが集積することを観察した。gmp46/CARの細胞表面の局在は、おそらくC末のSer-Ile-Valに結合したPSD95を介していると思われた。脳の形成期に一過性に発現するgmp46/CARが成熟脳においても、神経細胞新生の場所である海馬、脳室下帯、嗅脳に発現していた。個体レベルで解析するためにgmp46/CARノックアウトマウスを作出したが、初期に致死となり充分な解析ができなかった。gmp46/CARは圧倒的に脳に発現しているが、心臓、骨、腎臓にも僅かであるが存在し、これらの臓器において、実験的心筋炎モデル動物、骨折-修復モデル動物や腎炎モデル動物で、組織修復時にgmp46/CARmRNA及びタンパクが再び出現している結果を得た。
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