研究概要 |
分泌型セマフォリン分子は成長円錐を退縮し、反発性に軸索伸長を誘導する神経回路形成に重要な分子として見いだされた。一方,膜型セマフォリン分子の脳内における役割は不明な点が多いが、分泌型と同様、反発性に軸索伸長を制御する因子であろうと考えられている。しかしながら、1)私達はPC12細胞や後根神経節細胞を用いた研究から、膜型セマフォリン分子の1つであるSema4Dは必ずしも神経反発因子として作用するわけではなく、細胞や環境により神経栄養因子として作用することを明らかにした。一方、分泌型・膜型セマフォリン分子の受容体であるプレキシンがアクチン骨格系を制御する低分子GTP結合蛋白質、Rhoファミリーシグナル伝達系に直接、関与していることから,膜型セマフォリン分子の作用は分泌型セマフォリンと同様、アクチン骨格系シグナル伝達に関与していると予想される。 2)私達はSema4Dの受容体であるプレキシンB1が、ストレスファイバー形成や成長円錐退縮を引き起こすRhoAの活佳化に関与する2種類のPDZ-RhoGEFと構成的に結合し,これらがプレキシンB1の細胞膜での発現やクラスタリングに、また、プレキシンB1がPDZ-RhoGEFの細胞膜移行を誘導し細胞膜近傍でのアクチン重合を亢進する等、双方向性に関与していることを示唆した。 3)私達はSema4D発現細胞を同定し、これらの一部は少なくとも脳の炎症等に重要な役割を果たすと思われる細胞であることを明らかにした。 4)また、脳虚血疾患動物モデルではSema4Dが神経反発作用分子というよりも神経栄養因子として作用していると思われる結果を示した。 以上の結果は神経反発因子であるセマフォリン分子が胎生期の軸索誘導に関与するばかりでなく成熟動物の脳の炎症や神経再生においても重要な役割を果たしていることを示唆するものである。
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