研究課題/領域番号 |
14380363
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研究機関 | (財)東京都医学研究機構 |
研究代表者 |
上田 健治 財団法人東京都医学研究機構, 東京都精神医学総合研究所, 主任研究員 (90261180)
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研究分担者 |
吉井 光信 財団法人東京都医学研究機構, 東京都精神医学総合研究所, 参事研究員 (60091047)
相澤 貴子 財団法人東京都医学研究機構, 東京都精神医学総合研究所, 研究員
久永 真市 東京都立大学, 大学院・理学研究科, 教授 (20181092)
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キーワード | NAC / NACP / Synuclein / Parkinson / Alzheimer / 神経変性 |
研究概要 |
α-Synuclein(aS)遺伝子のミスセンス変異が優性遺伝性の早発型Parkinson病(PD)やLewy小体型痴呆を引き起す原因である事が判明し、これらの変性疾患の特徴的神経病理であるLewy小体やLewy神経突起の主要繊維成分がaSである事が確定した。しかしaSの生理的機能は不明のままである。病理を知るにはまず生理的状態を知る事が必須である。我々はaSに結合する蛋白質としてチューブリンを同定し、生理的条件のin vitro系で、微量のチューブリンが高濃度にあるaSの繊維形成を開始し促進する事を示した(JBC2002)。今回、この両蛋白質の結合性を生理的観点から検討した。ブタ脳から精製したチューブリンを用いて微小管形成実験を行ったところ、aSの存在下で精製チューブリンが重合し微小管を形成し、その重合活性はMAPとして知られるタウと同等以上であった。電顕を用いて構造を確認したところ、野生型aSは典型的な微小管形成を促進したが、変異型aS(A30PとA53T)は微小管形成機能を失い、オリゴマー様のチューブリン重合体が形成された。次に、aSの欠失変異体を作成し検討したところ、チューブリン重合形成能はaSのC末端領域に同定された。これらの結果と、チューブリンのオリゴマーはモノマーよりaSの繊維形成を促進するという先の我々の結果(JBC2002)を併せると次の可能性が示唆される。即ち、aSに変異のある家族性PD脳では野生型と変異型aS分子が半々共存すると考えられ、変異型aSが存在する事により、チューブリンのオリゴマー重合体が軸索内により多く存在し、それが今度はaSの重合を促進し異常繊維形成(即ちLewy神経突起)に至らしめるという可能性である。実際、A53T変異を有する家族性PD脳(Contursi家系)の病理検索から、aSの異常繊維蓄積は、特に軸索内にLewy神経突起として驚く程広範囲に顕著にみられる事が判明した(Duda et al. Acta Neuropathol.2002)。この家系は早発型であるが典型的Lewy小体はあまりみられない事から、軸索内のaS異常繊維蓄積が、神経変性から細胞死に至る充分条件である事を強く示唆している。この事は、Lewy小体型痴呆脳27例を対象とした我々の系統的病理検討(J Neurol Sci 2002)で、aS異常蓄積はまず軸索終末に形成されるという結論と見事に相関している。即ち、Contursi家系では、変異型A53T aS分子自体が野生型aSよりも異常繊維形成が促進されるのみならず、A53T aS分子がチューブリンのオリゴマー重合体を誘発する事によりさらに軸索内で異常繊維形成が促進され、典型的Lewy小体が形成される以前に軸索輸送障害などで神経変性を誘発し、若年で発症し死に至ると考えられる。従って、aS関連疾患の分子病理の初期過程としては、細胞内のLewy小体よりも軸索内、ないしは終末(即ちシナプス部位)に異常蓄積するaSを、より重視すべきであろうと思われる。 今、aSとタウの驚くべき類似性を知ることになった。即ち、これら両蛋白質は蛋白質物理化学的に相似するのみならず、同じ生理機能と病理的性格を有し、病的な状態の脳内にシヌクレイノパチーとタウオパチーと称される異常構造物を形成するのである。そして今回のaSの生理機能の発見は、aS関連神経変性疾患の機構究明に新局面を提供する可能性がある。
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