中枢神経系のミエリン鞘形成機構の解明には、オリゴデンドロサイトの分化の過程を分子レベルで理解すること必須である。発生の初期においては神経細胞膜上のJagged1と未分化のオリゴデンドロサイト前駆細胞上のNotchの相互作用によってNotchの細胞内領域NICDが切断されて核に移行し、RBP-Jを介してHesの発現を制御しオリゴデンドロサイトの分化が抑制されるモデルが提案されている。私たちは、本研究においてコンタクチンがNotchの新たな基質であることを示し、有髄神経のミエリン形成過程でNotch-Jagged1のトランスの相互作用からNotch-コンタクチンの相互作用に切り替えることによってオリゴデンドロサイトの成熟を促進することを明らかにした。Notch-コンタクチンのシグナルはDeltex1とNICDを介して核に伝えられMAGの発現を上昇させ、オリゴデンドロサイトの分化を促進した。コンタクチンは進化的に同一の分子から派生したと考えられるNB-3を含む他の5種類の分子とともにサブグループを形成している。そこで、これらのサブグループについてもオリゴデンドロサイト分化・成熟への関与について検討した結果、NB-3がコンタクチンと同様にNotchと結合し、そのシグナルはDeltex1とNICDを介して核につたえられMAGの発現を上昇させた。NB-3はコンタクチンよりも早い時期から発現し、オリゴデンドロサイト様に分化する細胞株OLN-93を使用した実験では、コンタクチンより顕著に分化・成熟させる働きが強いことも明らかにし報告した。今後はNB-3とコンタクチンの作用の違いについて更に詳細な検討を行うことにより、これらの生体内での役割分担についての知見が明らかになるものと期待される。
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