哺乳動物の体内時計中枢は、視床下部視交叉上核(SCN)に存在すると考えられている。これまでに、約24時間の(サーカディアン)周期をもって転写翻訳を繰り返す「時計遺伝子」が、SCNのリズム形成に主要な役割を担っていることが報告されている。一方で、既知の時計遺伝子産物は一般的な機能性タンパク(つまり酵素やイオンチャネルなど)ではないため、どのようにして生理活動リズムを形成するのか、未だに良くわかっていない。これまでに、細胞内Ca^<2+>濃度変化が、時計遺伝子リズムや生理活動リズムを調節することが報告されているが、SCNニューロンのCa^<2+>濃度に24時間のリズムがあるのかどうか?という問題は、その計測技術の難しさから未解決のままであった。 そこで本研究では、蛍光タンパクCa^<2+>センサー(Cameleon)を培養SCNスライスに強制発現させ、これを多電極アレイ培養皿上で観察する手法を開発した。この結果、SCNニューロンの細胞質Ca^<2+>濃度に明瞭なサーカディアンリズムが存在することや、このCa^<2+>濃度リズムが小胞体Ca^<2+>貯蔵からのCa^<2+>放出により駆動されていることが明らかとなった。また、核内ターゲティングCameleonではCa^<2+>濃度リズムが検出できないことも明らかとなった。これらの結果は、新たに観察されたサーカディアン細胞質Ca^<2+>リズムがSCNニューロンの生理活動リズムの「震源」になっている可能性を示唆している。 サーカディアン細胞質Ca^<2+>リズムの存在と核内Ca^<2+>濃度が安定であるという結果は、偶然にも植物細胞で報告されているものと共通であった。よって、このCa^<2+>リズムが生物の種間を問わず時計細胞に共通であるのかどうか、興味の持たれるところである。また、どの時計遺伝子がサーカディアンCa^<2+>リズムの制御に関わっているのかを解析することは、次なる重要な研究テーマであると思われる。
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