研究概要 |
自発開口放出が起こらない変異体syxでも正常なグルタミン酸受容体クラスターの形成が起こるというFeatherstoneらの報告(Featherstone et al.Nat.Neurosci,2002)に対する我々の反証実験を引き続き行った。その結果、syx発生胚でも母性Syxタンパクによると思われる微小終板電流(即ち自発開口放出)が極めて低い頻度でわあるがシナプス形成初期に見られた。このような場合、syx変異体でも彼らの主張どおり受容体クラスターが形成されていることが示唆された。しかし、シナプス部位に対してクラスターの占める総面積の比率(クラスター/シナプス)をシナプス形成に沿って詳細に調べると、自発開口放出が高い頻度で起こる野生型と比べsyxではその比率が極めて小さいことを見出した。グルタミン酸のシナプス部位への投与による反応を調べると小さい(クラスター/シナプス)比率に対応する形でsyx変異体では反応の有意な低下が確認され、受容体クラスターの集積密度にも有意な低下が見られた。加えてシナプス後部のみならずシナプス前終末の形態分化にも異常が見られることが明らかとなった。即ち野生型と比べてシナプス終末の分枝の数が減少し、シナプスボタンの形成が著しく阻害されていた。これらの結果から、受容体クラスターは発生初期の母性syxタンパクにより引き起こされる自発開口放出により、syxでもある程度は受容体クラスターが形成されること、syxはシナプス後部の受容体クラスター形成のみならずシナプス前終末の分化にも重要な役割を果たしていることが明らかとなった。
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