本研究の目的は、近接場光顕微鏡を用いて膜近傍.(150nm以下)における蛍光プローブの強度変化を高速イメージングすることによって、神経終末部におけるCaチャネルの活性化に伴う細胞内Caイオンの動態とシナプス小胞の動態を明らかにすることである。 実験には、キンギョの網膜から単離したオン型双極細胞を用いた。蛍光性Ca指示薬Fluo-4FFを記録用パッチ電極から双極細胞の軸索終末部に導入し、膜電位固定した。脱分極パルスを与えたときの蛍光強度の変化を近接場光顕微鏡で計測すると共に、Ca電流及び開口放出に伴う微小膜容量変化を記録した。脱分極すると、複数の明るいパッチが現れた。Ca電流を阻害した条件下ではこのようなパッチは観察されなかったので、Caドメインであると結論した。複数のCaドメインの時空間的変化をミリ秒オーダーで解析した結果、各Caドメインの中心部と約500nm離れた周辺部でのCaイオン濃度上昇の時間遅れは、微小膜容量変化の測定から推定された即時の開口放出と遅れて生じる開口放出の時間差を説明できるほど大きくはなかった。その原因として、蛍光イメージングに起因するアーティファクトである可能性や、Caドメインの中心部と周辺部で開口放出に関与するCaセンサーの感受性が異なる可能性等が考えられる。 シナプス小胞の動態を調べるために、細胞外からFM1-43をシナプス小胞に取り込ませ、近接場光顕微鏡で観察した。複数の輝点はそれぞれ染色された1個のシナプス小胞であることがわかった。脱分極パルスを与える前後での輝点の強度変化から、シナプス小胞が細胞膜に融合(開口放出)した場合と、シナプス小胞が細胞膜から細胞深部に遠ざかった場合を区別することができた。前者はCa電流が活性化されているときに輝点が消失し、後者はCa電流の活性化とは無関係に消失した。
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