感覚神経系において受容野周辺からの側抑制は、受けた刺激の輪郭を際立たせ、像や物体の形の認識の上で極めて重要なメカニズムである。視覚神経系の受容野周辺部の形成には網膜の水平細胞から視細胞へのフィードバックが関与しているという仮説は1970年代から多くの研究者が認めるところであった。その機構については研究者の理解は一致していない。このフィードバック機構にはGABAを介する機構とGABAを介さない機構があるように思われるので、この両面からフィードバック機構を解明した。 水平細胞から錐体視細胞へのGABAに依存しないフィードバック効果については、昨年度来検討を続けてきたが、この効果は電界効果ではなく、陥入型シナプス間隙におけるpHの変化によりもたらされることを確認した。Picrotoxinの投与によりGABAの効果を除去した条件下で、直視下に網膜スライス標本を観察しながら錐体視細胞からホールセル記録を行ってカルシウム電流の電圧依存性を検討したところ、水平細胞が過分極すると錐体視細胞のカルシウム電流は増大し、脱分極すると減少すること、水平細胞の膜電位変化は光でも薬理学的な操作でも同様であったが、記録槽中の灌流液の緩衝能力を高めるとフィードバックは消失した。これらの事実から、このカルシウム電流の変化は水平細胞の膜電位変化がもたらしたpHの効果であると結論した。カルシウムの流入は錐体視細胞からの伝達物質放出量を直接制御して周辺部効果を発生させる。 一方、水平細胞はGABA作動性の細胞であり、水平細胞が脱分極するとGABAが放出されること、錐体視細胞のシナプス終末部はGABAに対して高い感度を有することが広く知られている。従って、GABAが錐体視細胞に対し何の影響も与えないとは考えにくい。本実験はまだ続行中であるが、光刺激装置を用い視細胞の受容野周辺部刺激に対する応答を記録しつつGABAを灌流投与してその影響を検討したところ、内在性のGABA放出が認められた。
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