研究概要 |
マウスの生殖細胞を起源とする精巣性奇形腫(テラトーマ)の形成の仕組みを計画に沿って解析し,つぎの成果を得た. 1.始原生殖細胞(PGC)を起源とする実験的精巣性奇形腫の原因遺伝子を網羅的にマッピングするために,形成率の高い系統と形成率ゼロの系統のF2胎仔における実験的奇形腫の有無とマイクロサテライトマーカーの系統多型を連鎖解析し,前者に強く連鎖した形成遺伝子候補や領域を数種の染色体に推定した. 2.正常な精巣生殖細胞の特異的遺伝子を解析した.半数体特異的遺伝子の40%以上がイントロンレスで,3'poly(A)やダイレクトリピートを失い,これらの遺伝子はすべての染色体に散在した.また,エクソン内にCpGアイランドを持つものも多かった.6種類(Tact1,Tact2,OAZt, Scot-t1,Scot-t2,Cpa3)はいずれもTATA-box等の通常のプロモーターに見られるモチーフを持たないことから,特異的因子による制御が想像された.トランスジェニック解析では,これらの特異的発現には上流100bpほどと,下流5'非翻訳領域で必要充分であった.欠失変異および塩基置換変異プロモーターコンストラクトを精巣生殖細胞に導入し,CRE様配列を持つ上流エレメント,イニシエーターさらに下流領域の組み合わせが重要と判明した. 3.癌抑制遺伝子PTENのPGC特異的欠損マウスは,新生仔で精巣性テラトーマを発症した.胎仔期の精巣を調べたところ,PTEN欠損マウスのPGCにおいては,生殖細胞特異的マーカーの発現が消失し,未分化細胞特有のマーカー発現パターンを獲得することが示された.培養系において,PGCからEG細胞への脱分化が亢進しており,PTENによるPI3キナーゼの負の制御機構が欠損すると生殖細胞が分化多能性をもつ幹細胞に脱分化することが示唆された. 以上,引きつずき解析を進める.
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