研究概要 |
マウスの生殖細胞を起源とする精巣性奇形腫(テラトーマ)の形成の仕組みについて,つぎの成果を得た. 1.始原生殖細胞(PGC)を起源とする実験的精巣性テラトーマの原因遺伝子を網羅的マッピングするために,形成率の高い系統と形成率ゼロの系統のF2胎仔における実験的奇形腫の有無と市販或いは新たに設計したマイクロサテライトDNAマップマーカーの系統多型との連鎖解析を行い,ett-1と命名した形成遺伝子候補領域を得た. 2.129系のterホモ型雄に自発性精巣性テラトーマを高率に発症する生殖細胞欠損遺伝子terのファインマッピングを進めた. 3.癌抑制遺伝子PTENのPGC特異的欠損マウスは精巣性テラトーマを発症し,また一部の雌は卵巣性テラトーマを発症した.そこで卵細胞特異的PTEN欠損マウスを作製したが,卵巣性テラトーマは全く発症しなかった.この結果は,PGC特異的PTEN欠損マウスでは,従来知られている卵の単為発生に起因する卵巣性テラトーマとは別のメカニズムで,卵巣性テラトーマが発症することを示唆した. 4.生殖細胞起源のテラトーマ形成の対照として,正常な精子形成細胞の遺伝子の特徴を調べた.同細胞に特異的遺伝子Oxct2a及びOxct2bはイントロンレスであり,イントロンを持つ体細胞型Oxctから生じ,マウスとヒトで96%以上の相同性を保っていた.雄性生殖細胞は本来プロモーターでない配列からでも転写できることが判明した.半数体精細胞特異的Tact1遺伝子はイントロンレスであり,発現には遺伝子内部のCpGアイランドの脱メチル化が必要であった.また,生体生殖細胞遺伝子導入法のプロモーターアッセイ系を確立し,TATA-boxなどの基本転写の複合体形成初期過程に必須なエレメントを持たないプロモーターや転写開始点下流プロモーターなど,精細胞特異的なプロモーターを同定した.
|