全身性エリテマトーデス(SLE)は、自己抗体産生を病因とする代表的な自己免疫疾患で、その発症には複数の感受性遺伝子が関与している。我々は、SLEにおける自己反応性B細胞の異常活性化に係わる感受性遺伝子を明らかにする目的で、SLE自然発症系である(NZB x NZW)F1マウスを用いて自己反応性B1細胞の増殖に係わる遺伝要因のゲノムワイドな連鎖解析を行い、そのうちの一つがNZBマウスの第2染色体上にコードされるシグナル伝達分子Ltk(leukocyte tyrosine kinase)近傍に存在することを突き止めた。Ltk遺伝子解析を行った結果、NZBマウスでLtk kinase domainのp85結合領域近傍にアミノ酸置換を伴うSNPが存在した。このSNPを利用して連鎖解析の再検討を行ったところ、LODピークがLtk遺伝子に一致したため、Ltk遺伝子多型そのものが感受性遺伝子として作用していると考えられた。多型Ltk遺伝子導入細胞を用いたin vitroの解析から、NZB型Ltk遺伝子多型は、Ltk kinase活性の増強、ならびにp85結合能の亢進を介してPI3K経路を活性化し、結果的に細胞の増殖とアポトーシス阻止に働くgain-of-function型多型であることが示された。また、ヒトSLEにおいても正常対照に比較して、有意にLtk遺伝子のgain-of-function型多型の率が高く、多型を示すヒトのSLE相対危険度は約2.7倍であった。従って、Ltk遺伝子多型がSLEの一感受性遺伝子である可能性が示された。現在、B細胞に特異的にLtkを過剰発現するマウス系を作製し、そのB細胞機能の解析を進めている。
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