研究概要 |
採血や注射の際に素早く穿刺を行うと痛みの感じ方が少ない.これは組織に対する針の相対速度が高速であると粘弾性に依存する組織の変形が抑制されて神経自由末端の刺激・破壊が減少するためと考えられる.本研究では針にインパルス状の急変位を与える振動よって組織変形や神経破壊を最小限に抑制する穿刺方法の有効性の検討,評価を行うことを目的としている.昨年度開発した多自由度穿刺マニピュレータとピエゾアクチュエータ振動装置を用いた振動穿刺時の穿刺力の定量評価を引き続き行い,レーザー変位計を用いて振動幅を計測した.ピエゾアクチュエータの先端に注射針(27G:φ0.4mm)を取り付け,鋸状の振動(振幅約22μm,周波数10Hz)を与えながら速度2.5mm/sでアメゴム(t=0.5mm)を穿刺した.またアメゴムの粘弾性を変化させるため,10,20,30%を引き伸ばしたときの穿刺力も計測した.穿刺力はアメゴム固定具にロードセルを取り付け,針穿刺時にアメゴムが受ける力をサンプリング周波数100Hzで計測した. アメゴムを引き伸ばすと小さな引き伸ばし量(10%)でも穿刺力が約36%低下し,穿刺に必要な時間も半減した.振動を与えると一様に約10%の穿刺力の低下及びアメゴム引き伸ばし時に約10%の穿刺時間の短縮が認められた.振動は穿刺力を低下させたがアメゴムの伸ばし量には影響を与えなかった理由として,振動が主に針と穿刺対象との摩擦を軽減するからと考えられる.アメゴムの引き伸ばしによる穿刺力の低下は,アメゴムが薄くなると共に,与えられた張力が針先の切開する力と合成されアメゴムの破壊限界に達し易くなったためと考えられる.また穿刺時間が短縮したことは穿刺点の移動量が減少することを意味し,血管の逃げや潰れの回避に有効であることが示唆された.
|