本研究の目的は、腫瘍組織診断に供する簡便な蛍光顕微マッピング法装置、技術を確立することである。すなわち、腫瘍細胞と正常細胞間で、蛍光寿命値に差があることを利用して、細胞染色などによって試料にダメージを与えることなく、空間的な蛍光寿命値の分布測定を行うことによって組織診断を行う。迅速に測定を遂行するため、試料に与えるダメージが少ない蛍光位相変調法を念頭に置いた。 1年度目は、主として測定システム、周辺装置、エレメントの開発研究を行った。まず蛍光位相変調装置の主要要素である変調キセノン光源の開発を行った。すなわち、可視紫外波長域で連続な汎用分光計測用光源であるキセノンランプは、通常は直流点灯動作で用いられ、直接電流変調は不可能と考えられていた。この常識を覆し、正弦波電流変調させる技術を開発した。現状では周波数10kHzで変調度20%程度を達成している。この周波数のオーダーでは、蛍光寿命値がマイクロ秒オーダーの燐光やランタニド化合物などの遅延蛍光の測定が可能である。今後、さらに高周波の変調ができるように駆動回路を改良する予定である。また、蛍光位相法を用いて、蛍光減衰波形そのものの取得が可能なフーリエ変換方式蛍光寿命計を独自に考案試作した。蛍光寿命値そのものを算出させる従来の蛍光位相法では、減衰波形の取得は不可能であった。提案手法では、励起周波数を連続的に掃引し、応答波形を逆フーリエ変換することによって蛍光減衰を得る。光源として、紫外LEDおよび、白色LEDを用い、動作確認を行った。この技術は多成分試料の測定に特に有用である。一方、光検出手法として、擬似ロックイン方式の光電子増倍管、サブナノ秒ゲート光電子増倍管をそれぞれ独自に考案試作した。いずれも単独の動作確認はほぼ終了させた。今度これらのエレメントを落射型蛍光顕微鏡と結合させて、顕微分光測光を実施する予定である。
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