研究概要 |
本年度は研究最終年度であるので,これまで収集したデータを用いた分析作業と,今後も見越したデータ基盤となる各種地図のデジタル化に力を入れた. エジプト調査班においては農村調査用の地図作成にとくに力を入れ,カイロ大学学生の協力を得た現地調査地図と,1930年代にかなりの精度で作成したと思われる古地図を重ね合わせることによってほとんど存在しないエジプト農村の正確な地図の作成を進め,これを手掛かりに加藤の方法である悉皆家計調査を行い,詳細なデータを得た. これの詳細な分析は今後に委ねられるが,この調査結果と,以前から進めていたカイロ郊外の新興住宅地に住む地方からの移住民について,出身地の実態と都市に流入してからの生活との両面からの理解が可能になりつつあり,これに基づくいくつかの論文を出している.付帯してカイロ郊外の住宅地については独特の中層共同住宅を形成しているが,その形成史および間取りからみる住民の家族構成の原理も明らかにできた. またナイルデルタおよびナイル河畔における灌漑システムと耕地区画の分析について,同じく古地図のデジタル化を出発点に,水路ネットワークと耕地区画面積をもとに解析を行った. 中央アジア調査班においてはこれまで蓄積したデータの再解釈が中心になったが,デジタル地図をもとに灌漑水路網に焦点を当てて地形(斜度)など自然環境との関係,フェルガナ盆地の特徴的な民族分布の特徴の解明が進みつつあり,いくつかの論文として結実した. 中国調査班においては相手国の事情から統計データ処理に特化した分析手法をとったが,エジプトと同じ家計調査をもとに都市郊外に居住する住民の出身地分布などが明らかになり,全国的な貧富の拡大の格差という課題をミクロスケールにおいて把握することができた. 空間解析班は上記それぞれについてデータの取得方法,加工方法,ひいては調査の設計に至るまで各調査班と意見交換を繰り返し,結果として地理学・空間分析的見地からも,近現代地域研究の見地からもじゅうぶんと思われる新しい地域調査の方法の確立にかなりの程度近づけたものと考えている.
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