第1に、クレジット・デリバティブの私法上の効力との関係では、主として、2つの点について調査・検討を行った。すなわち、その射倖性ゆえに公序良俗に反するとされる可能性及び契約当事者の行為能力(とりわけ、法人の目的の範囲内の行為といえるか)について、欧米諸国の法制を調査し、前者については制定法によって対応している国が少なからずあるのに対し、わが国では明示的には賭博該当性を排除する規定は設けられておらず、公序良俗に反するとされる可能性があるという結論に至った(筑波法政39号において研究成果を公表)。他方、後者の問題については、とりわけ、アングロ・サクソン系の国々で問題となっており、わが国でも、公表された裁判例の範囲内では、法人の目的の範囲外とされたものはないが、とりわけ公益法人の資金運用との関係では問題があることが明らかになった(これを取り上げた研究成果は未公表)。 第2に、各国におけるクレジット・デリバティブの会計処理及び保証の会計処理について調査を行い、保証の会計とクレジット・デリバティブの会計とが接近しつつあることを見出した。すなわち、従来は、保証はオフバランスとされ、注記による開示にとどまっていたが、近年では、保証債務をその期待値で貸借対照表に--引当金としてであれ--計上する方向に動きつつあるのではないかと観察される一方で、クレジット・デリバティブも貸借対照表において認識されるのが一般的になりつつある。もっとも、クレジット・リンク債を組込みデリバティブとして取り扱うか否かの規準は必ずしも明確ではない。 第3に、クレジット・デリバティブの税務上の取扱い、法人税法上の損金・益金の算入のタイミングについて、各国の法制度を調査し、アングロ・サクソン系の国々では明示的な規定が存在することが少なくないのに対し、大陸法の国々では解釈の問題とされている傾向が強いことが明らかになった。 第4に、銀行の自己資本比率規制との関係でクレジット・デリバティブがどのような扱いを受けているのかについて、比較制度を行い、バーゼル委員会及びヨーロッパ委員会における動向を調査した。現在では、いわゆるBasel IIの方向に収束しつつあることを見出した。 第5に、保険業法規制との関連でクレジット・デリバティブがどのように評価されるかを調査した。
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