研究課題
日本で飼い鳥として親しまれているジュウシマツは、東南アジアの野鳥コシジロキンパラを240年前に輸入し家禽化したものである。コシジロキンパラの求愛のさえずり(歌)は非常に単純であるが、ジュウシマツの歌は複雑な文法構造を持っており、有限状態文法で記述できる。われわれは、ジュウシマツの歌は、家禽化によって捕食圧がなくなり、メスの好みがストレートに反映された結果、複雑化したのであると仮定している。歌は生得的な制約にもとづき学習により成立する行動であるから、ジュウシマツとコシジロキンパラには、遺伝的な差異と文化的な差異があると考えられる。平成14年度は、台湾におけるフィールドワークを行い、台湾のコシジロキンパラの地鳴きとさえずりを録音した。結果、地鳴きはジュウシマツと大差ないが、歌は単純であることがわかった。ある一地域におけるコシジロキンパラの歌は、ほとんど個体差が認められなかったが、個体によっては地鳴き成分を歌の最後に取り入れたものがあった。また、歌の複雑さで繁殖成功度が変化するかどうかを知るため、ジュウシマツとコシジロキンパラをそれぞれ20羽ずつ大ケージで飼育して自由に繁殖させた。DNA指紋法による親子判定を可能にするため、ジュウシマツとコシジロキンパラよりマイクロサテライトDNAを8つ分離したが、これだけでは親子判定は可能ではなかった。さらに、ジュウシマツとコシジロキンパラのヒナを入れ替え、学習可能性を探る実験を行っている。結果、コシジロキンパラはジュウシマツの音韻と文法を完全には学習できないようであることがわかった。以上の結果をもとに、さらに脳で発現する遺伝子の差異等も含めた研究に発展させる予定である。こうした研究をとおして、行動における遺伝と文化の相互作用についての知見が深まることが期待される。
すべて その他
すべて 文献書誌 (2件)