研究概要 |
出芽酵母細胞周期G2からM期への移行に関与するMPT5遺伝子を解析した。破壊株は温度感受性であり、HU感受性である。この温度感受性を抑圧する欠失変異(dsf : deletion suppressor of mptFive)を4種単離したところ、新規のdsf1,dsf2と、sir3,swe1であった。また、mpt5遺伝子破壊株の温度感受性はPKCをコードするPKC1,その上流因子であるMID2,SLG1の過剰発現でも、抑圧されたが、HU感受性は回復しなかった。PKC1の下流カスケードとして知られるBCK1,MKK1,MKK2,MPK1からなるMAPKカスケード因子を活性化しても抑圧できなかったことから、MAPKによるRlm1転写因子が働いているのではなく、PKCそのものか、MAPK以外の別の経路が働いて抑圧されると考えられる。これらは、cell wallの合成や、維持に関与する遺伝子発現をとおして抑圧していると考えられる。これらの経路では、HU感受性は抑圧できない。sir3,sir2,sir4、どの欠失変異でも同じ効果があることから、Sir2/3/4複合体が関与していることがわかった。また、マルチコピーサプレッサーとして欠失変異MATalpha2が単離されているので,サイレンシングを外すと抑圧することが考えられる。HMR、HML部位の脱抑制すると、diploid型になり、1倍体でも接合不能になる。Telomeresの脱抑制では、Telomeres近辺に位置するcellwallの合成や、維持に関与する遺伝子が発現する。sir欠失変異による温度感受性とHU感受性の抑圧はRAD52依存的であった。従って、sir欠失変異では、HMR、HML部位の脱抑制とTelomeresの脱抑制の両方が起こることによって、効率よくmpt5遺伝子破壊株の温度感受性とHU感受性が回復すると考えられる。また、高温での増殖停止はSwelを介したいわゆるmorphogenetic checkpoint controlが働き、G2/M期で停止したと考えられる。DSF1 mRNAは、mpt5遺伝子破壊株で野生型株の2倍量蓄積していた。mannitol dehydrogenaseをコードしていると考えられので、mannitolを菌体内に溜め込むため、菌体が破裂しやすいのかもしれない。また、DSF2は分裂酵母のnif1と似ている。Nif1はNim1キナーゼのインヒビターであり、Swe1(Wee1)と同じように、CDKを負に制御する因子である。この遺伝子は新規のCDK制御因子である可能性があり、今後の課題である。
|