研究課題
基盤研究(B)
吃音は多種の要因が関与した障害であり、いまだ病因は不明である。幼少時の実態についても十分な研究が行われていない。また、日本では治療成績が不良である。本研究では、幼少期の吃音を対象とし、遺伝学的・医学的(脳生理学的・耳鼻咽喉科学的)・言語病理学的・聴能学的・心理学的・言語学的・工学的手法を有機的に統合した学際的チームによって、吃音の病因、進展のメカニズムを考究するとともに、吃音児を類別化することによって、基礎的治療情報の抽出を行うことを目指した。平成14年度に続いて、就学前の吃音幼児33名、吃音学童17名総計50名、およびこれに対応する健常児50名を対象として、以下の課題を実施した。(吃音児に対してのみは、吃音歴に関して、保護者および対象児から、資料を得た)。(1)遺伝的要因の検討:保護者から回答を得た遺伝的情報の分析、検討。(2)吃音症状の重症度および症状分析:母子場面および父子場面の観察、分析、検討。(3)心理的特性の検討:対象者の特性や能力<(気質、情緒的問題行動、性格、言語能力、構音能力、親子関係の状況>について、検査および質問紙で評定、検討。(4)社会的環境の検討:生育歴情報および社会性検査の結果を分析、検討。(5)声帯運動および発語協調運動の検討:5母音および持続発声させた母音の音響的指標の分析により、声帯運動および発語時の呼吸と声帯の協調運動の分析、検討。(6)聴覚的機構の検討:聴力検査を行うとともに、語音聴取による両耳分離聴実験を実施し、両耳の聴覚的機構について分析、検討。(7)運動機能の検討:日本版ミラー検査の実施、分析、検討。(8)言語情報処理の脳内活動の検討:言語情報処理時の両半球の活動状態についての計測、吃音症状との関連の検討。吃音の進展については、8割の吃音児が小学1年生までに自分の発話の非流調性を自覚し改善することを望んでいた。言語能力の発達では、生活年齢に比べ有意な遅れは認められなかった。母子相互作用では、吃音児は発話数が少なく、発話速度も遅く、pause timeが長い傾向があり、母親は、発話長・発話速度・pause timeからみて、会話を統制している傾向がみられた。声帯活動に関する分析では、成人吃音者にみられる呼気と喉頭の制御不全が示唆された。また、両耳分離聴実験の学齢児への実施方法、脳内活動の分析方法を検討した。現在、遺伝学的、生理的(脳内活動、発語調整機能、聴覚的特性)、心理的、言語的、社会環境的則面の各種資料を統合して総合的な検討を続けており(全員が担当)、この結果は平成17年3月印刷の報告書に掲載する。
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