研究概要 |
肥満細胞はIgE抗体を介し即時型或いは遅延型アレルギー反応のエフェクター細胞として機能することは周知である。我々は,既にこの細胞が多分化能造血幹細胞に由来する血液細胞の一種であることを明らかにしてきたが,炎症に応答して末梢血中を流れる肥満細胞の前駆細胞がどのような分子シグナルを内皮細胞から得て,続いてどのような機構に基づいて血管壁を通過し,結合組織内で増殖・分化するのか,さらに活性化肥満細胞の脱分化に伴う再増殖・分化過程での組織内遊走機構などは全く不明のままであった。本研究の目的は細胞外マトリックス分解酵素(MMP-9)に焦点をあて,肥満細胞の組織内分布過程における分子シグナルとその制御機構を解明することにある。本研究によって以下の研究成果を得た。 1)肥満細胞をIgE介在性に脱顆粒させると、産生されたMMP-9前駆体が肥満細胞顆粒中のセリンプロテアーゼによって、細胞外で生物学的意義を有する活性化型に変換されることを明らかにした。 2)肥満細胞前駆細胞の血管内皮細胞の接着と侵入プロセスにおける細胞接着分子の関与とMMP-9の産生を検証するため,内皮細胞への接着と内皮細胞通過と線維芽細胞間への侵入実験を行ない,肥満細胞前駆細胞を遊走させることに成功した。さらに、IgEを結合した肥満細胞が特異的抗原物質に向かって遊走すること、この遊走反応をSCFが阻止することを明らかにした。 3)分離血管内皮細胞において,MMP-9産生を誘導する神経成長因子の産生および特異的レセプターの発現を確認した。また、神経成長因子は、肥満細胞の増殖分化だけでなく,内皮細胞の生存維持にも関与することを実証した。さらに、内皮細胞や結合組織から産生される神経成長因子が、炎症の局所において血小板と相互作用して肥満細胞に脱顆粒を誘導することを明らかにした。
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