本研究は、住民が河川災害時にどのような行動を取るのか、その意思決定過程のプロトコルデータを収集し、プロトコルデータから状況の認識に用いた知識や推論の過程を事実推論ルールとして抽出し、状況認識から行動を決断する過程を行動ルールとして抽出し、抽出した推論ルールをもとにして、避難行動のシミュレーションを行うことを目的とする3ヵ年の継続研究である。 まず、平成14年度に、ビデオを用いた水害疑似体験実験を行い、非難行動決定過程の発話プロトコルを収集し、同プロトコルから様相分離法で2270の命題を抽出した。平成15年度は、平成14年度に抽出した行為命題に対して、動詞とその動詞と共起する名詞句の格(特に「対象格」「随伴格」「目標格」「道具格」)に着目して分類を行った。その結果、動詞とその動詞と共起する名詞句に出現する名詞の辞書的意味から、プラグマティックな解釈を行わずに、行為の分類が可能であることを明らかにした。 平成16年度は、状況認識に関する889命題を抽出し、(1)事象が生起している時間により、既定事実(過去の経験)、即時的状況(避難行動時間帯内で生じる現況及び予測)、恒常的属性・普遍的真理に分類でき、(2)避難行為動詞に伴う格の意味内容から記述対象が、水害原因、非難場所、避難経路、水害情報および同伴者に分類でき、(3)述語句の特徴から事実記述的な命題と評価命題に分類できることを明らかにした。最後に、行為命題と状況記述命題を組み合わせて、避難行動をシミュレートした。今回の実験では性別、住宅、居住地の地理的状況、家族の状況などの要因を厳密にコントロールしてデータが取得できていないため、個人個人の状況に応じたシミュレーションまではできなかったが、水害経験者、未経験者の行動の差異を再現することはできた。
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