研究概要 |
地質学・古生物学分野の研究から,第四紀における日本列島周辺の陸橋形成期は1.2Ma,0.6Ma,0.4Maの3回であり,それ以外に2万年前頃に津軽海峡に氷橋が形成されたと推定した.日本列島周辺における第四紀の陸橋形成と動物群の移入については古くから論議されてきたが,従来のシナリオでは長期間にわたる陸橋形成とそこを通っての動物群の大量移入,さらに大量移入による動物群の大規模な改変の繰り返しが想定されていた. しかし,化石や地層に残された記録はそのようなシナリオでは到底説明できるものではなく,本研究では従来のシナリオとまったく異なるシナリオを考えた.すなわち陸橋や氷橋が形成された回数は少なく,しかも1回の陸橋の存続期間は短かったと考える.そのため動物群の移入は,大量移入と言えるものではなく,中期更新世とそれ以降では非常に限られたものとなったのであろう.このようなことは,酸素同位体変化曲線で寒冷期のピークが短期間であること,本州・四国・九州の化石産地から知られる中期更新世とそれ以降の哺乳類化石群集が保守的な性質をもっていて,大陸からの移入による大改変が見られないことからよく理解される. 一方,考古学の分野では捏造事件の後遺症で研究の進展はあまり見られず,人類学の分野でも従来,旧石器時代人骨とされたものの多くが否定されてしまったことなど,本研究にとっては当初の予想よりネガティブな結果となり,これらの分野では人類の渡来についてのダイナミックなシナリオを作り得るような成果は得られなかった.しかし,われわれはこのようなことが逆に日本列島への人類の渡来の実体を表していると考え,第四紀の日本列島への人類の渡来を可能にする陸橋の形成は,回数的にも1回の持続時間も非常に限られていたため,陸橋を渡って人類が渡来する機会はなく,渡海手段を獲得した人類が初めて後期更新世の寒冷期に狭くなった海峡を渡って日本列島にやって来たと考えた.
|