本研究では、大規模密度汎関数計算による生体化学反応へのアプローチを目指して、以下のような研究を行った。 (1)FeO^+およびFeO^<2+>による酸化反応のメカニズムを調べた。具体的には、ホルムアルデヒド〜蟻酸〜二酸化炭素の酸化過程を密度汎関数法を用いて計算した。その結果、これらの酸化過程においてはC-HやO-H結合の切断とOH基の転移が主な反応過程であることが分かった。 (2)メタンモノオキシゲナーゼによるメタンの水酸化反応について、その活性中心の合理的モデルを用いて大規模密度汎関数計算から理論的に考察した。その結果、FeO^+によって気相中で起こるメタンの水酸化と基本的に同一のメカニズムで起こる反応経路を見いだした。これは中間体に炭素ラジカルを持たないユニークなメカニズムとして今後注目されると予想される。 (3)シトクロムP450によるカンファーの水酸化反応について、その活性中心の合理的モデルを用いて大規模密度汎関数計算から理論的に考察した。その結果、ポルフィリン環を活性中心にもち、中心の鉄の配位環境が飽和しているこの酵素では、中間体に炭素ラジカルを持つ、いわゆる酸素リバウンド機構が働いていることを示した。すなわち、この酵素反応では、メタンモノオキシゲナーゼによるメタンの酸化とは異なるメカニズムで進行すると予想された。 これらの結果をまとめた論文については既に発表済みである。
|