研究概要 |
腎臓で生産され赤血球造血系にのみ作用するとされてきたエリスロポエチン(EPO)について、申請者は脳、子宮における生産を発見した。そして、脳EPOは、虚血時の神経細胞死を抑制する効果があることを証明した。この発見は他の研究室の研究により広く支持されており、EPOを脳梗塞の治療に使用する臨床実験が行われ、顕著な治療効果が報告されている。さらに申請者は、雄性生殖器官に予期せぬ生産部位が存在することを発見した。子宮のおけるEPOは、性周期に伴う子宮内膜層の肥厚の際に起こる血管新生に関与することを明らかにした。 他方、トリプトファンからNADを合成する経路の中間代謝産物であるキノリン酸(QA)がEPOの生合成を抑制することが報告された(D.Pawlak et al., Contribution of quinolic acid in the development of anemia in renal insufficiency. Am.J.Physiol.Renal Physiol.,284,F693-F700,2003).QAは腎不全の血液中に蓄積することが知られており、QAがEPO生合成を阻害することはQAが腎性貧血を引き起こす原因物質であることを示唆する重要な発見である。本研究では、in vitroで培養した子宮および精巣上体によるEPO生産へのQAの影響を調べた。子宮によるEPO生産は、エストロゲンに顕著に誘導されるが、QAはエストロゲンの存在に関係なく子宮によるEPO生産を阻害した。精巣上体のEPO生産は低酸素で顕著に誘導される。QAは酸素圧に関係なく、精巣上体のEPO生産を抑制した。
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