腎臓で生産され赤血球造血系にのみ作用するとされてきたエリスロポエチン(EPO)について、申請者は脳、子宮における生産を発見した。そして、脳EPOは、虚血時の神経細胞死を抑制する効果があることを証明した。この発見は他の研究室の研究により広く支持されており、EPOを脳梗塞の治療に使用する臨床実験が行われ、顕著な治療効果が報告されている。さらに申請者は、雄性生殖器官に予期せぬ生産部位が存在することを発見した。子宮のおけるEPOは、性周期に伴う子宮内膜層の肥厚の際に起こる血管新生に関与することを明らかにした。本研究では、雄性生殖器官におけるEPOの生理機能および生合成の制御機構を明らかにすることを目的とした。 マウス精巣、精巣上体を培養し、上清のEPOを測定したところ、精巣、精巣上体ともにEPOを生産していたが、精巣上体のほうがはるかに多くのEPOを生産していた。mRNA含量も精巣より精巣上体が多い。精巣上体のEPO mRNA含量は発達と共に顕著に増加した6すなわは、3週齢から7週齢(性的成熟期)に至るまでに、EPO mRNAは120倍に増加し、他方全RNAは3倍の増加であった。精巣上体は、精巣より輸出された精子が運動能力を獲得し受精能力を獲得する場所であるので、EPOはこの過程に関与する可能性がある。 他方、トリプトファンからNADを合成する経路の中間代謝産物であるキノリン酸(QA)がEPOの生合成を抑制することが報告された。QAを蓄積させることが出来れば、EPO生産が抑制され生殖器官におけるEPOの機能を解明すことが出来ると考えた。そこで、QAの代謝酵素であるキノリン酸ホスホリボシルトランスフェラーゼ(QPRT)遺伝子を除去したマウスの作成を開始したが未完成である。しかし、フタル酸がQAを蓄積することを発見したので、上記のマウスが完成しなくても本研究を遂行する有力な手段を入手した。
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