研究概要 |
本研究は、神経分化および機能維持におけるNRS-NRSF率の意義を理解することを主目的とし、以下の4項目について研究を進めた。 (1)NRSFと転写コア因子の協調作用による転写抑制メカニズムの解析:NRSFとTBPおよび他の基本転写因子との共沈実験について、市販の抗体を購入して結合実験を行った。TBPとRAP30,TFIIBとの結合が比較的再現性よく見られ、特にTBPとの結合は強固であった。TBPの部分欠失体との相互作用を検討した結果、NRSFのN末の抑制ドメインRD-1とC末の抑制ドメインRD-2との結合様式を明らかにした。また、NRSFとTBPの相互作用がNRSFによる転写抑制に必須であることを証明した。(Murai et al.,2004)。 (2)NRSFドメイン構造および転写抑制ドメインの立体構造解析:NRSFのRD-1,RD-2領域の立体構造を決定するために、各ドメインを大腸菌で大量調整し、NMRによる構造決定を共同研究先へ依頼した。予備実験の結果、構造が不安定で決定しづらい状況だったので、N末についてはmSin3のPAHドメインとの複合体としての解析を準めた(野村ら、第26回日本分子生物学会年会発表,2003)。 (3)NRSFターゲット遺伝子群(NRSレパートリー)の解析:SCG10類似遺伝子であるSCLIP遺伝子のプロモーター近傍にNRSF様の配列を見いだし、それも機能的にサイレンサーとして働くことを確認した。しかし、この配列は位置依存的な活性を示し、厳密な意味でのサイレンサーではないことも明らかにした(Sone and Mori,投稿/改訂中,2004)。SCG10のもうひとつの類縁遺伝子RB3の機能解析を進め、微小管崩壊活性にN末のドメインが影響することを明らかにした(Nakao et al.,2004)。 (4)NRSFの神経分化および神経変性疾患における役割の解析:NRSF (REST)とSCG10の発現のバランスがダウン症患者の神経幹細胞で崩れていることが報告され話題となったが、それに関連して我々はダウン症の脳そのものではNRSFの発現変化はないことを示した。これはウィーン大学のLubec研との共同研究である(Sohn et al.,2003)。
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