研究分担者 |
南 武志 近畿大学, 理工学部・生命科学科, 助教授 (00295784)
今井 亮 東京大学, 大学院・理学系, 助手 (90223304)
高橋 和也 奈良県立橿原考古学研究所, 理学研究所加速器基礎研究部, 専任研究員 (70221356)
富田 克敏 近畿大学, 教職教育学部, 教授 (70025352)
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研究概要 |
古代中国では,紀元前5世紀頃にはすでに墳墓の埋葬物に朱を使用されており,その風習が古代日本に伝わったと思われる.風習が伝達された当初は「魏志倭人伝」に記載があるように,朱そのものも中国王朝より下賜された貴重な赤色顔料であったと思われる.しかしながら朱は,我国が豊富に産出する鉱石の一つであり,北海道と東北地方北部を除くとほとんどの辰砂鉱床は西日本の主に外帯に分布し,これらの産地は鉱山として稼業されたものも含め約100箇所に達している.その中でも縄文時代から採取されていたと思われる三重県丹生鉱山や弥生時代に稼業していたと思われる徳島県水井鉱山など,紀元前後にはすでにいくつかの辰砂鉱山の存在が知られていた.貴重な赤色顔料として埋葬儀式に朱が用いられた経緯から,我々は遺跡出土朱の産地推定をイオウ同位体比分析より試みている.その結果,紀元前後の北九州から山陰・丹後にかけた遺跡からは中国産と思われる朱の存在を,2世紀から6世紀の大和地方の古墳からは三重県丹生鉱山産あるいは奈良県大和水銀鉱山産と思われる朱の存在を報告した.しかしながら朱を埋葬儀式に用いたと思われる遺跡は日本国中に存在しており,当時の権力者の繋がりや流通を知る上で朱の産地を知ることは有意義である。 以上の観点から、本研究では日本全国の辰砂鉱山のイオウ同位体比と遺跡出土朱のイオウ同位体比を比較した。その結果、中国鉱山の辰砂のイオウ同位体比と日本の鉱山の辰砂のイオウ同位体比には著しい違いがあることが判明した。この結果をもとに、遺跡出土の朱(辰砂)のイオウ同位体比を測定したところ、弥生時代は中国産の辰砂が使用され古墳時代の前夜には、中国産から日本産の辰砂に大きく変化していることが明らかとなった。
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