今年度は、まず第一段階として、ラーマーヤナの伝承形態について、国内外における研究成果を収集して検討し、いかなる傾向が観察されるかを確認し、本研究計画の意義と可能性とを検証する。その上で現地に赴き、現地の協力者の助けを借りながら、必要な調査研究に努めることを目標に置いた。南アジアと東南アジアでインド起源の英雄神話がどのように流布し受容されているかを、文献学と民俗学(芸能)の両面から探る準備を整えることができた。南インド系の叙事詩の伝承と異文化交流の歴史的足跡をたずね、その社会的意義と役割とを明らかにするための初期の段階を達成した。 東南アジアにおける南インドの文化的影響を、具体的な「ラーマーヤナ」の伝播というかたちで跡づけることで、これまで漠然と指摘されてきた両者間の歴史的関係を、文化の伝承という側面から確立するだけでなく、東南アジアの王権にとってのインド英雄叙事詩の意義を再確認することができる。これらは、上に述べた文献研究と現地調査の両面が相侯ってこそ、はじめて可能になるものである。 具体的には、主として南アジア・東南アジアでさまざまな形で伝承されたラーマ説話を採話し、画像や映像に収め、また印刷資料・映像資料を収集した。東南アジアに伝播したラーマ物語、特にタイの『ラーマキエン』に注目し、流布の形態とプロットを詳しく記述して特色を分析した。それを南インド版ラーマーヤナと比較考察し、伝播の道筋や変容の過程を明らかにすることが次の目標となる。
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