今年度は本研究プロジェクトも最終年度を迎え、従来のようなインドシナ世界を主たる対象地域とするばかりでなく、昨年度から調査研究の対象をマレーシア・シンガポール以東の地域まで拡げ、より総合的・網羅的な観点も加えつつ展開を図っている。 現代の東南アジア多元世界としてのシンガポール社会を中心的に取り上げ、市内の代表的な一ヒンドゥー寺院を対象に、ヒンドゥー系の祭祀に見られるヴィシュヌ=クリシュナ系の儀礼要素や叙事詩的諸要素の伝承形態を探り、インド系移民社会および東南アジア多民族社会におけるヒンドゥー教的伝統、とくに叙事詩的伝統の維持と変容について調査をおこなった。とりわけ、火渡りの儀礼に見られる女神ドラウパディーの役割と叙事詩『マハーバーラタ』の伝承との関連について詳細に現地調査を行った。また、同じくシンガポールにおける華人系道教寺院の年祭であるヴェジタリアン・フェスティヴァルを取材し、昨年度のプーケットにおける事例と比較して、それに見られるインド系の諸要素について検討を行った。寺廟関係者との面接調査も集中的に行っている。 インドネシア・ジャワ島東部に存するヒンドゥー教の遺跡群をめぐるインド系の宗教伝承に関する調査は、今年度は収集した文献を中心に分析を重ねるにとどめ、研究計画の一応の総括を図った。 このように今年度においては、研究の完結と総括を第一目標に、収束すべき分野と将来的に展開すべきものとを峻別しつつ、一つの纏まった知見を得るよう努めた。以上の成果は、単行本や雑誌論文の形で陽の目を見、また数ヶ月後に出版される見込みになっている。
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