本研究プロジェクトは、従来のような南アジア・古典世界の文献学的研究にとどまらず、古代から中世にかけて南アジアから東南アジア世界に伝播し普及した仏教やヒンドゥー教をとりあげ、インド学研究をより総合的・網羅的な観点も加えて大きく展開を図ったものである。 多元社会としての東南アジア世界に目を向け、そこに息づく仏教、ヒンドゥー教の伝統と、道教、キリスト教、イスラームとの関わりを念頭に入れながち、インド的宗教の意義と役割を歴史的文脈および現代的文脈から調査し考察した。これまでの現地調査と資料収集により、タイ仏教と国際ツーリズムの問題、タイの国家仏教におけるインド系叙事詩、とくにラーマキエン(ラーマーヤナ)の機能、ミャンマーにおけるインド系叙事詩の伝承、インドネシア・ジャワ等中部と東部におけるインド系叙事詩の伝承形態、バリ島におけるヒンドゥー叙事詩と国際ツーリズムによる伝統の変容などをめぐり、顕著な成果を得、著書や学術論文のかたちに結実している。調査・研究の成果は今後も発表していくことになる。また、東南アジアのインド系移民社会におけるヒンドゥー教的伝統、とくに叙事詩的伝統の維持と変容についても調査をおこなった。 インドネシア・ジャワ島東部に存する仏教とヒンドゥー教の遺跡群をめぐるインド系の宗教伝承に関する調査については、なお予備的な段階にとどまっており、本研究段階においては、分析考察のために収集した文献や資料の整理を行った。本分野について今後さらなる研究の進展を図る計画である。
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