研究課題/領域番号 |
14401003
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研究機関 | 国立民族学博物館 |
研究代表者 |
立川 武蔵 国立民族学博物館, 先端民族学研究部, 教授 (00022369)
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研究分担者 |
森 雅秀 金沢大学, 文学部, 助教授 (90230078)
石井 溥 東京外国語大学, アジアアフリカ言語文化研究所, 教授 (90014513)
長野 泰彦 国立民族学博物館, 民族学研究開発センター, 教授 (50142013)
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キーワード | ヒマーラヤ / ネパール / カトマンドゥ / タントリズム / 密教 / チベット / 仏教 / 祖先崇拝 |
研究概要 |
昨年度はヒマーラヤ地域の仏教タントリズムと祖霊崇拝との関係に焦点をあてたが、今年度はヒマーラヤの仏教タントリズムとシャマニズムとの関係をとりあげた。特に仏教タントリズムの主要な実践法の一つとして知られる観想法(成就法)とシャマニズムにおける憑依の身体技法との関係について考察した。 インド仏教タントリズムにおいて観想法が行法の一つとして登場するのは七世紀以降と思われるが、九世紀頃にはこのタントリズムの行法はシャマニズム的な憑依の技法を取り入れたのではないかという仮説を立てた。『大日経』までの中期仏教タントリズム経典に説かれる瞑想法と『勝楽』『呼金剛』といった後期仏教タントリズム経典に述べられるそれとの間には大きな違いがあり、さらに後期経典に述べられる「行者の体験」はシャーマンが憑依になる際の体験と酷似しているのである。これはおそらく仏教タントリズムの方がシャマニズムの身体技法を取り入れたためと考えられるのである。 カトマンドゥ盆地を中心として、ネワール仏教タントリズム、チベット仏教タントリズム、さらにはネパール・ヒンドゥ・タントリズムにおける観想法の実態を観察すると、シャーマンの憑依とほとんど同じ現象であると考えられる。したがって、後世は仏教タントリズムがシャマニズムの技法を取り入れたのであろうという仮説が立つのである。 もっとも仏教僧たちとシャーマンたちとの間には激しい抗争が今日も続いているのであり、観想法と憑依とは厳密に区別されるべきものである。ことは一般的理解ではある。しかしそれでもなお、仏教タントリズムの基層にはシャマニズムの要素が流れ込んだと考えられる。それがどのような歴史的経過をたどったのかは今後の課題であろう。 バリ島にも仏教タントリズムが伝播し、今日でもわずかに残っていることを確かめた。バリの仏教タントリズムの想法がどのようなものであるか、ヒマーラヤの仏教クントリズムとどのような共通点を持つかは今後の研究に待ちたい。 ただ、バリ・ヒンドゥイズムにおいでも「タクス」と呼ばれる憑依現象が起きた際の神と人との媒介者がいることをつきとめた。このタクスはシャマニズム的な要素を有している。
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