研究課題
基盤研究(B)
紅海地域の港湾都市には、人、商品、技術が往来し、中でも、シナイ半島は、地理的要因に加え、ユダヤ教、キリスト教、イスラームの共通の聖地であることから、イスラーム社会の多様性、重層性を示しており、本研究のテーマと合致することから、3年間を通じてシナイ半島ラーヤ遺跡発掘調査で出土したイスラーム・ガラスの考古学的、分析化学的研究に力点を置いた。その結果、8世紀から9世紀にかけてのシナイ半島のキリスト教世界からイスラームへの変容の一端を明らかとすることができた。その結果、8世紀まではパレスティナ地域との関連が深く、9世紀になるとビザンツ様式をもつ城塞がイスラーム化され、イラクおよびエジプトの影響が強まっていることが判明した。この年代がウマイヤ朝からアッバース朝への政治的変化とほぼ一致することから文化変容の考察に役立つ。その後、東西交易ルートがペルシャ湾から紅海に移るファーティマ朝の時期になると、カット装飾杯に代表される広大なイスラーム圏内の交易活動を示す資料が出現する。化学分析に関しては、原料の相違によるナトロン・ガラスと植物灰ガラスの存在を明らかとし、この差が9世紀を画期とする指し示す時代的変遷および、イラク、エジプトとシリア・パレスティナ地域との地域差を指し示す要素であることを解明することができた。また、『ゲニザ文書』や『ヒスバの書』などの文献資料およびガラスなどに描かれた意匠などから、ユダヤ教徒ガラス職人の活動、キリスト教徒とイスラーム・ガラスとイスラーム教徒との関連について考察を進めた結果、イスラーム時代のガラス製造業を中心とした活動に異教徒が多大に貢献しており、これらが有機的に結合していた様子まで明らかとされた。ラーヤ遺跡の発掘調査は継続されており、今後、更なる新史料の蓄積により、今回の課題がより深められていくことが想定され、今後も研究を継続する予定である。
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